小檜山 博-染地

<作家紹介>

 小檜山博は、1937(昭和12)年北海道滝上町雄柏の炭焼小屋で生まれました。
 両親は会津喜多方の出身ですが、その頃、東北地方から北海道へ希望を託して入植する農民が数多くいました。この両親の歴史は作品「光る大雪」にくわしく書かれています。
 雄柏中学校へ入学した博少年は、規模の大きい学校で勉強したいと、二年生のとき滝上中学校へ転校します。「風少年」はこの時代のことを書いた小説です。
 両親から、中学校を卒業したら家業(当時は農業)を手伝うよう強く言われますが、兄たちの援助で高校に進学。1956(昭和31)年苫小牧工業高等学校電気科を卒業することができました。
 卒業前に北海道新聞社に入社が決まり、入社後は勤務のかたわら小説を書きます。「文学界」「新潮」「すばる」などの文芸誌に作品を次々に発表しました。
 1961(昭和36)年、東京へ転勤となり、初めて上京。調布市小島町(現在の市役所あたり)のアパートで東京での生活を始めました。当時調布はまだ拓けていなくて、原っぱの多い淋しいところだったとか。
 1969(昭和44)年、再び転勤で北海道へ帰ります。以来、小説、エッセーを書き続け、いくつかの賞(作品紹介をご覧ください)を受賞しています。
 現在は、札幌市に住み、執筆のかたわら、全国各地で講演活動も行っています。
 調布へ何回かお招きし、講演会を開いています。ご自身の体験をふまえての骨太のお話は、大へん好評でした。 (土井)

<受賞作品>

 「出刃」    1976年  第1回北方文芸賞

                第75回芥川賞候補

 「光る女」   1983年  第11回泉鏡花文学

                北海道新聞文学賞

 「光る大雪」  2003年  木山捷平文学賞

 「風少年」   2005年  2006年度、中学校教科書に採用される。

<その他の作品>
 <小説>  イタチ捕り・地吹雪・荒海・黯い足音・鏡の裏・
地の音・雪嵐・クマソタケルの末裔・夢の女・パラオレノン・スコール 他
 <エッセー>  野人の巣・ただ坂道を歩きたくて・自分に出会う日・夢の通い路・北国の人生・人生という旅・ぼくの本音・ぼくの白状 他
※2006年には、作家生活30年 記念出版として、全8巻の「小檜山全集」が発刊される。

<作品紹介1>

『光る大雪』

 小檜山さんは、あとがきで「ほとんど事実そのものを書いた」と言っていますが、彼が書き続けている自伝的小説の一つです。
 主人公は小檜山さんのご両親、希市とカナです。福島県喜多方の貧しい農家の長男希市と、希市のお母に騙されて結婚したカナの二人がどのようにして北海道に入植し、どのような人生を送ったのか。淡々と忠実に足跡をたどったものです。
 2~3年、北海道で炭焼きをして、お金が溜ったら会津へ帰ってくると故郷をあとにした二人の生活は、まさに人間としての最低生活でした。手造りのほっ建て小屋の床は、土の上に伐った木を並べ、ムシロを敷いただけ。雨が降れば小屋の中は水びたしになるといった有様です。
 遂に炭焼きに見切りをつけ、畑を開拓し農民となりますが、暮らしは少しも楽にはなりません。そんな中、正月を前にして希市は出刃包丁をとぎ、カナに「殺してやる」と襲いかかります。働いても働いても楽にはならない生活、会津へ帰るという希望も捨てざるを得ないといった鬱積したものの爆発だったのでしょう。
 小檜山家の歴史であると同時に、当時の北海道入植者の歴史でもあると言えるでしょう。

<作品紹介2>

『風少年』
 作者、小学校六年生から中学校を卒業するまでの少年時代を書いた自伝的小説です。
 無台は北海道網走管内滝上町。両親は、会津から北海道滝上町の奥、中雄柏へ入植した貧しい農民です。
 両親は、勉強より家業が大事だと言います。
 “ぼく”は学校から帰るとすぐ畑仕事にかかります。一週間に一日は学校を休んで手伝えとも言われます。勉強は怠け者がするものだと親たちは言うのです。
 中学二年になるとき、中雄柏の中学校から滝上町の学校へ転校します。中雄柏では複式授業で、しかも三部に分れているのです。それに滝上には憧れの美根子もいます。
 片道14キロ、三時間も通学にかかりますが、 “ぼく”はめげません。でも冬になると積雪のため、片道五時間もかかるようになりました。さすが両親も見かねて仕方なく、冬の間だけ、滝上の親戚に下宿させます。
 “ぼく”はそこに居る間は労働から開放されます。「ゆっくり勉強できるなんて、何と幸せなんだろう」としみじみ思いました。
 現代、勉強することに幸せを感じる子どもが果しているでしょうか。
 高校進学は無理でも、せめて受験だけでもと受けた結果、網走管内40校の受験生中、一番だったと新聞に載ります。
 でも ぼくはどうせ進学できないのだからと大して気にもとめないのでした。
 作者を取りまく厳しい自然、労働、そして暖かい教師との出会い、ほのかな恋心、性への目覚めなど、貧しい中にも真っすぐに、シャイで逞しく成長していく姿を淡々とさわやかに描いています。(土井)